(2)
アメリカから帰国して、あれこれバタバタしているうちに、後期授業が始まった。
まるで夢のような現実の数日間はあまりにも濃い時間で、いつまでも浸っていたいような気持ちになっていたけれど、日本に帰れば現実が待っているわけで、忙しい毎日であっという間に時間が過ぎてゆく。
「琴ー!お昼一緒しよう~」
キャンパスでわたしの姿を見つけたつぐみが駆け寄ってくる。
変わらない毎日がそこにある。
「なんか秋の気配がただよう感じ」
「そうだね」
キャンパスに立つ木々の葉は赤や黄色に色を染め始めている。
季節は移り変わる。確実に。
「それで、ダーリンとはどうよ」
「ダーリンて、なに」
河野くんとダーリンはあまり結びつかなくて、からかうように言っているつぐみに呆れてしまう。
「連絡とってる?」
「毎日メールがくるよ」
「へえ?」
お互いの日記代わりになっているメール。特別なことは書いてはいない。ただ当たり前の日常を綴るのみだけれど、それがお互いにとって一番知りたいことなのだ。
「よかったね」
つぐみの言葉にわたしはうん、と静かに頷いた。
河野くんと過ごした時間は夢のようで、もしかしてあれはわたしの妄想なんじゃないかと思ってしまうこともあって、部屋に飾ってある『サクラの木』の絵を見つめる。
ここにある確かな約束。
勉強机代わりに使っているローテーブルに図書館で借りてきた資料を広げた。
「やるか」
課題の論文に取り掛かる。
彼には彼の生活があり、わたしにはわたしの生活がある。今は一緒に歩むことはできないけれど、河野くんが帰ってきたときに恥ずかしくない自分でありたいと思う。
大学生活も、サークル活動も、そしてアルバイトも。どれも中途半端にはしたくないから。
ふと何かを感じて顔を上げた瞬間、電話が鳴った。
「はい」
電話の向こうの声を聞いて、わたしは微笑んだ。
「今?論文書いてたんだけど、丁度休憩しようかなって思ってたの」
END