(2)
「おばさん・・・」
わたしはその姿を認めて目を見開いた。
それは河野くんのお母さんだったから。
「琴ちゃん!久しぶりね」
懐かしくも明るい声にわたしはどこかで諦めていた気持ちがざわめく。
「お越しいただいていたんですね。ありがとうございます」
「とても素敵だったわ」
「河野先生もご一緒ですか?」
「ええ、でも生徒たちを連れているから」
「あ、そうですよね」
わたしがおばさんの先に視線を向けると、おばさんはすぐに気づいたように口にする。
「真もね、来ていたのだけど・・・」
どきり、とした。
来ていた・・・。見てくれていたということなんだろうか。
その事実が、ずきんと胸に響く。
「河野くん、どこにいるんですか?」
わたしが何も言えずにいると、つぐみが聞いてくれた。
「いつの間にかいなくなってたのよ」
その言葉にやっぱり避けられているのかもしれない。そう思っていると、おばさんはでもね、と言った。
「あの子、車椅子だからそんなに遠くには行ってないと思うわ」
「車椅子?」
「ええ」
「わたし、探してきます」
気がついたら、そう言葉にしておばさんの返事も待たずに走り始めていた。
思っていたよりもかなり広い大学の敷地内を、浴衣の裾を右手で少し掴むと、無我夢中で走り回った。フェスティバルということでたくさんの人に溢れていて、中には車椅子の人もたくさんいて、わたしは何度も立ち止まった。
何も知らない場所で、こんなにたくさんの人がいて、見つけられるはずないと思いながら、どうしても探さずにはいられなかった。
立ち止まるたびに、Are you OK?とか、Beautiful kimono!というような英語が耳に届いた。
「いったいどこまでが大学の敷地なの…」
あたりを見回してぽつりとこぼれおちる言葉。もはやこの場所に河野くんはいないようにも思えた。
人通りが少なくなった大きな建物の前で、息が苦しくなってとうとうしゃがみこんでしまうと、どうしようもなく、絶望感に襲われた。
こんなに近くにいても、会えないのかと、思えば思うほど苦しくなった。
ハァハァと荒い息を整えていると、前の方が少し翳った。
「せっかく綺麗な浴衣を着てるのに、汚れるよ」