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2日目も忙しく、着替える暇もなく浴衣でうろうろしていたら、事実上クラスの学園祭実行委員になってしまっている竹田くんにつかまって、「浴衣で呼び込みしてきてよ」と頼まれてしまい、わたしはフランクフルト屋の前で、なぜか浴衣姿でフランクフルトを両手に握らされて、山ちゃん先生には大笑いされてしまった。
「お祭りで、フランクフルトが買えて大喜びしてる子どもだな」
とか言ってくれちゃって。
ひとりで大恥かいてたら、つぐみが一緒に参加してくれた。
夕方までに仕入れた分は売り切って、わたしたちはお互いに喜びあった。なにがそんなに嬉しくてたまらなかったのかよくわからないけれど、やりきった感とか満足感が溢れてきて、ものすごく気持ちよかった。
「ほら、さっさと片付けて、後夜祭の準備するぞー」
誰かの声で、みんな片付けに取り掛かる。後夜祭は全校生徒でボーンファイアーといってキャンプファイアー的なことを毎年やっている。
グラウンドの真ん中に焚き火をして、それを囲むように全校生徒が男女に分かれてフォークダンスを踊るのだ。
フォークダンスなんて、と思いながらも、みんな学園祭でテンションもあがっているし、一番大盛り上がりの定番イベントとしてこの高校では有名だ。
フランクフルトの看板やその他燃えるものは焚き火の中ですべて燃やしてしまうため、男子たちが次々と運んでいった。その姿を見て、少し切なく思いながら、わたしも片付けを手伝った。
あらかた片付いたところで、つぐみが「ことー行くよ~」とわたしの腕を掴んだ。
「え、わたし売り上げの計算やっちゃおうと思ってたんだけど」
「何言ってんのよ。最後なんだから参加しなきゃ」
「う、うん」
強引なつぐみ連れていかれ、わたしたちはグラウンドでなんとなく輪になりかけているところに入り込んだ。しばらくすると、『ジェンカ』が最初に流れ始めた。
よく見るとみんな学園祭の衣装のままなので色んな格好をしていた。仮装喫茶をやっていた2年の男の子たちが妙にノリノリだったので見ているだけで面白かった。
『マイムマイム』に続いて『オクラホマミキサー』が始まる頃にはほぼ全員がフォークダンスに参加していた。
ふと、少し先にいる河野くんの姿見えて小学生の頃に戻ったかのような感情がわきあがる。運動会では必ずフォークダンスがあって、いつも恥ずかしさや照れくささでドキドキしながら踊っていた。誰もが好きな子と手をつなげる瞬間を待っていて、わたしもそのうちのひとり。河野くんはずっと憧れだったから。
あ、次の次・・・
次・・・
ゆっくりとカウントダウンされて近づいてくる彼の姿に、わたしは急に恥ずかしくなってきて、顔が熱ってくるのがわかった。日が沈んだ後で本当によかったと思った。
手と手が触れて、一瞬だけ目が合った。
フォークダンスが終わってからも、多くの生徒たちがグラウンドに残ったまま、わーわーと騒いでいるのがわかる。わたしの熱も冷め切ってはいなかったけれど、教室に戻った。
「琴、顔赤くない?」
「え、炎のせいじゃない?」
「そう?朝早かったから疲れたんじゃない。琴は準備もフルで参加してたし」
「うん・・・」
わたしはつぐみに手伝ってもらって電卓を叩いた。
さっさと売り上げの集計を終わらせて帰りたい気持ちだった。
「つぐみ、ごめんね、手伝わせて」
「いいのよ、どうせ、こんな日に勉強なんてできないし」
本当はこのとき、疲れよりもなによりも、心の中があまりにもドキドキしていて、心臓がどうにかなってしまったんじゃないかと思うほど自分自身で制御できなかった。なんとか落ち着かせようと、ペットボトルのお茶を何度も飲んだけれど、その日は、家に帰っても、落ち着くことはなかった。