(3)
「琴は今日表彰されないの?」
始業式、後ろに立っていたつぐみがこそこそと耳元で囁く。
「ないない」
「なんだ、残念」
「なにが?」
「だって、琴が表彰されるとあたしも鼻が高いもん。あれ、あたしの親友よ、みたいな」
「えー」
「ふふ」
わたしは時々表彰される。
もともと小学校の頃から読書感想文や、作文、習字なんかが入選したりして表彰されていたせいか、中学校でも常連となり、それが内申書に書かれ、高校でもそういったコンクールに応募してみないかと声をかけられるようになった。
学校としても校内から入選者が出るのはイメージがよくなるからだと思う。
始業式の後の表彰式では春休みに活躍したであろう生徒たちが壇上に上がった。その中には河野くんの姿もあった。
小学生でなんでもこなせる子が高校生で伸び悩んだりするのが普通だといわれているのに、河野くんは変わらずすべてにおいて優秀だ。
式が終わって渡り廊下を歩いていると桜の花びらがひらひらと舞っていた。
「今日の校長なかなかよかったね」
「え?」
「要点をさくっとまとめて、さっさと終わらせてくれたじゃん。去年とは大違い。心を入れ替えたのかしら」
「つぐみってよく見てるよね」
ホントつぐみの人間観察には驚かされる。わたしなんてぼーっと聞いてただけなのに、きっとつぐみは話の内容までしっかりチェックしていたのだろう。
「だらだら長いと眠くなるでしょ。去年なんて長時間直立で倒れた生徒が何人いたことか」
「確かに、多かったね」
じーっと立ってると確かに気分が悪くなるんだよね。だからサボりたくなる気持ちもよくわかる。
「琴、志望校書いた?」
「うん。つぐみは?」
「わたしもだいたい」
明日は新入生の入学式。わたしたちは出席する必要はないので、担任との二者面談で指定の時間に学校へ行けばいいだけ。この面談が重要な意味を持っているのは言うまでもなく、いよいよ受験生になったのだと思い知らされる。
「担任、山ちゃん先生でよかったね」
「だよねー」
山ちゃん先生こと山岸先生はいつも明るくて前向きな男の先生で、独身で20代なせいか親しみやすく、2年のときも担任だったので進路相談もしやすい。本人は初の受験生の担任なのでかなり緊張してるらしいけど。
わたしたちが教室に戻ってしばらくすると、噂の山ちゃん先生が教室に入ってきて、ざわざわしながらもみんな席についた。
わたしたちの最後の高校生活が始まった瞬間だった。