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わたしが失恋をした体育館裏のサクラの木が満開になったその日、高校生活最後の年の始業式を迎えた。少し大きめだった制服も今は丁度いい。
女子は高校では成長期も止まるとか言われているけれど、そんなことはなかったようだ。
「あ、琴、今年も一緒。進学組だと同じクラスだと思ってたけど、よかったよかった」
「つぐみー!」
良かったね、とお互いに抱き合って喜んだ。大げさかもしれないけれど、クラス替えってすごく大切。同じクラスになれるかなれないかでその1年が大きく変わってくると思う。
進学組は理系クラス、文系クラス、短大専門学校志望クラスとわかれていて、2年最後の進路調査をもとにクラス分けがされることになっている。
わたしたちは共に文系進学クラスを志望していた。とはいえ、人数調整で希望通りのクラスに入れないこともたまにあるから、この日まではずっとドキドキしていたのも事実。
なんとなくクラスの張り紙を確認するかのようにもう一度見ると、3年2組、わたしの名前の上に書かれてあった名前に目が釘付けになった。
『河野 真』
その名前はとても有名だった。同じクラスになるのは何年ぶりだろう。
小学校からずっと一緒の学校といえば、幼馴染とか腐れ縁みたいな感じだけれど、中学では3年間違うクラスだったし、高校に入ってからも縁はなくお互いもう関わることはないと思っていた。まさか最後の最後で同じクラスになるなんて、不思議な気持ちでいっぱいになった。
つぐみと一緒に3年2組の教室に入ると、すでに河野くんはクラスメートと一緒に楽しそうに話をしていた。
最後に同じクラスになった小学6年生のあの頃に時間が戻ったかのような錯覚に陥って自分でも驚いた。
「おはよう」
目が合うと普通に挨拶をされ、わたしも「おはよう」と答えた。それ以上の会話はなかったけれど、こうやって挨拶を交わすのも随分と久しぶりな感じがした。
黒板に乱雑に書かれた名簿順の座席に鞄を置いて、わたしはつぐみと一緒に女子トイレに向かった。
身だしなみを整えているとつぐみが話しかけてきた。
「琴って、あの河野真と同じ中学だったんだっけ?」
「うん。クラスは違ったけど。小学校も同じだったよ」
「えー、そうなの。だからか」
「なにが?」
「さっき当たり前のように挨拶してたから」
「河野くんて誰にでもあんな感じだよ」
「そんなことないわよー。あたしひとりなら絶対気づかないって」
「そうかなぁ」
「だって、あの河野真だよ!成績優秀、スポーツ万能、なにをやらせても天下一品。教師の信頼も厚く、それでいていやみなところが何一つない聖人君子」
「つぐみ、詳しいね」
「有名すぎるじゃないの。知らないほうがおかしいわよ」
「そっか」
ものすごい勢いのつぐみの姿に、確かに言われてみればそうかもしれないと思った。
河野くんは昔からあんな感じだから、それが当然というか、わたしなんて絶対足元にも及ばないすごい存在で、いつだって一目置いてきた。きっと誰もがそうだったんじゃないかな。
小学生からいつもそういう存在だったから、今さらあまり驚いたりはしない。でもつぐみにとっては初めて同じクラスになるわけだから、いろいろ興味があるようで、その後もあれこれと質問攻めにあってしまった。