【春夏秋冬、花が咲く】夏、君が微笑む 第二部 - 7/10

「いらっしゃーい!」

空音さんの笑顔で迎えられ、私は少しだけドキドキした。やっぱりお兄様もいるってことよね。

ホテルの一室というよりはどこかのマンションにでも入るように、玄関で靴を脱いで、スリッパを履いた。

雰囲気もガラリと変わって高級感というよりはアットホームなインテリアでまとめられていて、通されたリビングルームもとても広々とした開放感溢れる、陽あたりのいい暖かい感じで、これは絶対に空音さんの趣味だろうな、と思った。

「美絵さんはこちらに。男性二人は放っておいていいですよ~」

ソファの上でスーツ姿でくつろいでいるお兄様と、まるで自分の家のように遠慮なく座っている尚弥さんを置いて、私は強引に空音さんに連れられていく。

「あ、あの・・・」

空音さんの行動にはいつもハラハラさせられてしまうけれど、なんだかそこの男兄弟はいつものことだというような顔をしている。

「ここ、わたしの部屋なんです」

ニコニコしながら空音さんは小さな部屋に私を入れてくれた。

その部屋はどこにでもあるような普通の女の子の部屋。

「小さな部屋の方が落ち着くんですよね」

空音さんはさっきまでの大人びた雰囲気はどこにもなくて、とてもリラックスしているように見えた。

服装もカジュアルなワンピースだから、かな。

うん、やっぱりこっちの彼女が本物なんだよね。

「ここに座ってくださいね~。今、お茶淹れますから」

私が気を使わなくてもいいですと断る暇すら与えないくらい、彼女はてきぱきと動き始めた。

いったん部屋を出て、少し会話しているのが聞こえたので、おそらくあのご兄弟にもお茶を用意したのかなーと思った。

なんだかんだと言いながらも、きっちりこなしてる姿には尊敬してしまう。

「はい、お待たせしました~」

「ありがとうございます。えっと・・・あの、お話って…」

空音さんは私のとなりにストンと腰を下ろすと、ふふっと笑った。

「さっき、尚弥さんとってもかっこよかったんですよ!美絵さんにお見せしたかったくらい!」

「え?」

「美絵さんが部屋で休まれてる時に尚弥さんを呼び出してしまったでしょう?」

う、爆睡していて全く気づかなかったんだどね。

「そのとき、さっきの女性とお話したんです」

「ええー!」

「尚弥さんてば、『てめえ、よくのこのこ俺の前に出てこれたな。コーヒーぶっかけられたくなかったらさっさと俺の前から姿を消せ。俺の女はどう転んでも美絵以外にはいないんだよ。』って、ハッキリおっしゃったんです!しかも今にも手を出すんじゃないかってくらいの勢いでした・・・」

コーヒーぶっかけって…尚弥さんもしかして覚えてたの!?

私はまさかこんなことを聞かされるとは思いもしてなかったので、すごく間抜けな顔をしていたんじゃないかと思う。

「あんなに怖い尚弥さんは初めてでした」

あの怖いお兄様のとなりにいつもいる空音さんが怖いというくらいだから、どれほどだったのだろうと思った。

でも同時に嬉しさが込み上げてきて、どんな言葉を発していいかわからなかった。

この部屋を出たら、尚弥さんがいるのに、どんな顔をすればいいんだろう。

「美絵さん、愛されてますねぇ!」

「そんなこと・・・」

「そんなこと、あると思いますよ?美絵さんのこと、特別大事にしてますもの」

空音さんは、かつて尚弥さんの好きだった人が自分だなんて思いもしていないんだろうな。

尚弥さんはいつも「兄貴たちは相思相愛」って言ってるくらいだし。

「もしかして、尚弥さんに言ってくれたの、空音さんですか?」

「違いますよ。本当はわたし、お話するつもりだったんですけど、尚弥さん、どうやら知ってたみたいです、あの女性のこと」

「え?」

「わたし、・・・だったらなんであのとき美絵さんを助けなかったんですか?って聞いたら、あんな目立つところで助けたら余計に美絵さんがまた敵意を向けられるだろう、っておっしゃって」

「そ、そんなこと言ったんですか、尚弥さん」

なんだかじーんときてしまう。

「はい。わたし、尚弥さんの選んだ女性が美絵さんですごく嬉しいんです」

「わ、わたしも空音さんみたいな素敵な女性と義理とはいえ姉妹になれるのすごく嬉しいです」

「姉妹!そっか、そうですよね!!姉妹になるんですね、わたしたち!」

空音さんは突然大喜びで、私の両手をとった。

まだ女子大生の空音さん。こういう立場にいると友達とわいわい騒いだり、夜遅くまで飲んで遊んだり、なんてこときっとできないに違いない。

そのあとしばらく、わたしたちはなぜか今日のパーティにきていた有名人や、イケメン外人のことを話しながら・・・ガールズトークで盛り上がった。

 

食事中も空音さんと私ばかりがひたすらしゃべっていて、尚弥さんとお兄様は呆れたように私たちを眺めているのがなんだか面白かった。