【春夏秋冬、花が咲く】春うらら:番外編 雨の日のデート

「あー、せっかくの休みなのに雨だよ。」

 

春樹さんに起こされて、のそのそと着替えを済ませて窓の外を眺めると、ざーざーと勢いのよい音が聞こえてくる。

キッチンからは目玉焼きを焼いているだろうジュワーッという音と、コーヒーのほろ苦い香りが漂ってくる。

休みの日の朝は、なかなか起きれない。

もともと朝は強かったけど、これは絶対春樹さんのせいだとしか思えない。

ああ、あたしの生活習慣が・・・崩れていく。

 

しかも、なに。あの起こし方は。

「柚葉ちゃん?そろそろ起きないと・・・どうなるかわかってるよね?」

耳元でそう囁きながらウインナーをあたしの口に押し込んできた。

なんなの、あれは。

確かにあたしは食べることが好きだけど。

寝起きにウインナーってなに。

 

しかも「なんかいやらしいよね、その姿。」と言い残して去っていく春樹さん、そう、うちの社長。

 

自分でやっといてなんだそれは!

寝込みを襲うよりヒドイ。

ていうか、罪のないウインナーはおいしかったけど。

 

「今日のおでかけは映画でも観ようか。」

「そうですねー。」

 

ダイニングテーブルに朝食を並べるのを手伝いながら、いつもながらにおいしそう・・・なんて思わず見とれてしまう。

なぜに春樹さんはこんなに料理が上手なんだろう。

 

「何か観たいのある?」

「んー、今、なにやってるんですかね?」

「ネットで調べてみる?行ってから決める?」

「行ってからでいいんじゃないですか?ほら、決めていっても途中でやっぱこっちがよかった、とか思うことありません?」

「・・・柚葉ちゃんらしいね。」

 

なんて、朝は平和だった。

そう、平和で和やかな朝。

 

それなのに・・・。

 

「はー?何言ってるんですかー!雨の日っていったらアクションですよ!アクション観てどっかーんがらがらーずどーん、あースッキリ!って感じじゃないと!」

「意味分からない。なんで恋人同士で映画観に来てアクション?恋愛ものに決まってるでしょう?」

「なんでわざわざ恋愛ものなんですか!恥ずかしいじゃないですか、いまさら。」

「それがいいんだよ。愛情深めあえるから。」

「じゃあDVDでも借りればいいんですよ。」

「大画面で観るからいいんだよ。」

「大画面だったらアクションの方がいいに決まってるじゃないですか!」

 

延々と続けられる言い合いはとどまることを知らない。

なんで映画館に来て、こんなことで言い争わなければならないのよっ。

 

「春樹さんは年上なんだから言うこと聞いてくれたっていいじゃないですか!」

「ふーん、そうやってまた僕のことをおじさん扱いするんだね、柚葉ちゃんは。」

「ち、違いますって。何大人げないこと言ってるんですか、って言いたいんですよ!」

「別に、大人げなくていいよ。」

「・・・。」

 

年のことになるとやけにつっかかってくる春樹さん。なんか拗ねてるし。

これが会社の社長。

誰が信じるだろう、この社長の姿。

社長の実態はこんなですよー!と大声で言ってやりたい。

 

「わかった。じゃあ柚葉ちゃんの観たいものでいいよ。」

「ホントですか!?」

「うん。アクションて音でっかいよね。」

「そうですね。」

そりゃーアクションですからね。

「じゃあ、ちょっとくらい声出しても平気だよね。」

「は?」

「あんなことやこんなこと・・・」

あんなことやこんなこと・・・って、はあ!?

「ぎゃあああ、なに言ってるんですか!!映画館ですよ!公共の場所!」

と大声で言いたいのを我慢し、周りに聞こえないように春樹さんに詰め寄る。

一体、何を考えてるの、この人はー!

 

「じゃあ、行こうか。」

「え、いや、ちょっと待ってくださいって!」

すたすたと歩き始めた春樹さんを追いかける。

「や、やっぱ恋愛ものでいいです!恋愛もので!」

「・・・別にいいんだよ?アクションで。」

「いえ!ぜひ恋愛もので!」

「そう?じゃあ柚葉ちゃんの同意も得られたし・・・恋愛ものにしようか。」

春樹さんはニッコリ。

 

や、やられたー!!!

 

またしてもやられた。

う。

なんであたしはこんなにも単純なの?おろかなの?

いくら春樹さんだって公共の場所で手を出してくるわけないじゃないの。

ああ。

やっぱり踊らされてる。

 

チケットを2枚持って戻ってきた超ご機嫌な春樹さんを軽く睨みつけながら、あたしはため息をついた。

 

暗闇に包まれた映画館の中で肩を寄せ合って観るラブシーン。

あまりの恥ずかしさに直視できずにいたら、春樹さんに手を握られた。

 

妙に熱がこもってるその手の感触に、思わずドキリ、とする。

そして唇を重ねられ、あたしは一瞬声を出しそうになるけれど、その声さえも封じられた。

 

なんだ、結局こーなるんじゃないの!

 

 

 

END

 

 

 

柚葉ちゃんと社長のラブラブデートの模様でした。

柚葉ちゃん・・・ガンバレ!