【春夏秋冬、花が咲く】冬の小鳥 雪どけ - 6/6

エピローグ

「明日から荷物、片付けなきゃ。」

「そうだな。まあでも、ドコ行っても混んでるし、こういうゴールデンウイークもいいんじゃないか?」

「うん・・・そうだね。」

 

順番にお風呂に入った後、部屋を見渡しながら、冷たいお茶を淹れる。

速人さんのマンションから運ばれたソファ、テレビ、ベッド、冷蔵庫、洗濯機以外の家具家電は購入することになって、とりあえずダイニングテーブルは購入後すぐに組み立てて、使えるようになった。

段ボールの山と、購入したものの箱が積み重なるリビング。

 

緊張と、期待と。

それは交互に襲ってくる。

 

つきあい始めて半年近く。

デートは週に1,2回。門限があるから10時までには家に送ってもらう。

会社では朝の休憩室で泊まりの出張以外毎朝会って、ごくたまに副社長室で一緒にランチ。

なんだかあまりにも健全なおつき合いをしている。

友人に言わせてみれば「ありえない」の一言だ。

確かにハタチを過ぎて社会人にまでなってる大人が、半年つきあっていてキス以上の関係にならないのってやっぱりありえないのかなと思ったりもするけど、まともに男の人と付き合ったことがないのでその辺はどうなんだろう。

 

でも、一緒に暮らすとなると・・・そう・・・なるんだよね。

 

考えるとドキドキしてきてしまう。

部屋は3LDKで速人さんの寝室、仕事用の書斎、そして私の部屋だ。

もちろん私の部屋用のベッドも購入している。

つまり、寝室は別々にはなっている。

 

でも、一緒のベッドで寝たこと・・・あったんだよね。

あの時は、もう父とのことで頭がいっぱいだったから、あまりその辺のことは深く考えなかったけど、今思えばなんて大胆なことをしてしまったんだろうって思ってしまう。

 

「そろそろ、寝る?」

「え、う、うん。」

「早く片付け終わらせて、少しくらいはでかけよう。」

「うん・・・。」

 

しーん。

 

無言の空間がさらに緊張を高める。

どうしよう。

なにか言った方がいいかな。

あれこれ頭の中で巡らせていると、速人さんが先に立ち上がって口を開いた。

 

「じゃあ、また明日。」

 

速人さんは笑顔でそう言うと、私の額に軽くキスを落とす。

恥ずかしくて顔をそらすと、彼はさっさと自分の寝室に入ってしまった。

一人残された私は、思いっきりはーっと大きくため息をつく。

呆れられたかもしれない。

 

いつの間にか敬語はなくなったし、一緒にいることが自然になっていったけど、やっぱり一緒に暮らすとなるとどうしていいかわからなくなってしまう。

速人さんはどう思っているんだろう。

恋愛初心者の私に合わせてくれてたりするんだろうか。

こんなので一緒に暮らしてうまくいくんだろうか。

 

確かにトントン拍子に話が進んで、あっという間に今日の日を迎えてしまったけれど、私だってずっとこの日が待ち遠しかった。

あの息苦しい実家を離れて、好きな人と一緒に暮らせることをどんなにか夢にみていたことだろう。

叶わないと思っていたことが、今この現実にある。

 

私も自分の部屋に戻ろう・・・と立ち上がる。

ちらりと速人さんの寝室の方を見て、リビングの電気を消した。

 

廊下に出て自分の寝室の前で立ち止まる。

 

たぶん彼は私の気持ちを優先してくれているんだ。

いつも私の心をすくい上げてくれる。

こんなにも好きになってしまった。

もう戻ることなんてできないくらい。

 

足は、そのまま方向を変えた。

 

ゆっくりと向かったのは速人さんの寝室。

軽くノックしてドアを開く。

速人さんはサイドテーブルにある灯りをつけて本を広げていた。

 

「どうした・・・?」

「あの・・・」

 

彼の瞳が私の身体全体に集中しているのがわかる。

緊張した時間が流れる。

 

「一緒に・・・寝ても・・・いい?」

 

ありったけの勇気を出して口にする。

 

「・・・何言ってるかわかってる?」

「え?」

「前みたいに何もしないで、隣で寝る・・・なんてことはもうできない。それでもいいのか?」

 

何もしないで・・・。

それはつまり。そういうこと。

私は何も言わず頷いた。

きっと顔は真っ赤だ。

恥ずかしいくらい真っ赤になってるに違いない。

でも一緒にいたいと思った。

せっかく一緒に暮らせるのに、別々に寝るなんてそんなのは淋しいと思ってしまった。

だから私は今、ここに立っているんだ。

 

「おいで。」

 

彼は、優しく言った。

私はドアをパタンと閉めて、速人さんの横になっているダブルベッドに近づいた。

 

「好き・・・。」

 

私が言葉を発したその瞬間、速人さんの腕が伸びて私の身体は引き寄せられるように抱きしめられた。

のしかかったベッドのスプリングのきしむ音が部屋中に響きわたる。

彼の腕の中で、彼の啄むようなキスを受けながら、後悔なんてしない、と瞳を閉じた。

 

閉じられた扉は、朝まで開くことはなかった。

 

 

 

おわり

 

 

 

いいところで終わるなー!って感じですかね・・・(^-^;)

1話完結っぽい感じでその後の同棲にいたるまでのお話を載せてみました。

 

この二人の続きを書くとすれば次は結婚編って感じでしょうね。

もちろん柚葉ちゃんたちも登場です。

 

しかし副社長・・・よくぞここまで耐えました(笑)

 

 

 

2008年7月 蒼乃 昊