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待ち合わせ場所に戻ると、同じように待ち合わせをしているであろうたくさんの人に混じって愛しい人の姿がそこにあった。
私は、一度大きく深呼吸すると、彼に向かって歩いた。
「は、速人さん、お待たせしました。」
「紀美香・・・。」
一瞬、速人さんが固まるのがわかった。
そして私の手を掴むと、人ごみを掻き分けるように早足で歩き始めた。
「ま、待って。」
やっぱり、変だったかな。こんな自分に似合わないようなことするべきじゃなかったかも、と激しく後悔してしまう。
しばらく歩いて人通りの少ない場所へ移ると、速人さんが口を開いた。
「安蘇にやってもらった?」
安蘇さんの名前が出てきて、私が彼のところでヘアメイクをしてもらったこと、すぐに気づかれたのだと思った。
当たり前よね。
自分ではここまでできないもの。
「うん。」
「ったく、あいつは・・・。」
「ごめんなさい。」
「いや、紀美香のことじゃなくて、まぁ、いいんだ。これは。」
「??」
速人さんのあやふやな言葉に、ますます落ち込みそうになってしまう。
「とりあえず、行こう。」
私たちは、速人さんが予約しているという場所へ向かうと、そこは良く聞く名前のホテル。
ホテルのレストランでディナー?
私は綺麗な服で来てと言われただけで、どこのお店を予約しているとかは全く聞いていなかったので、確かにここならフォーマルな服装じゃないダメよね、なんて納得してしまう。
けれど、速人さんが向かったのはレストランではなく、チェックインカウンター。
そして案内されたのは、コーナースイートという素敵な客室だった。
中へ入ると、
「うわ・・・。」
夜景が見渡せる窓の傍に用意されたふたりだけのディナー用スペース。テーブルには花が飾られ、ワインのボトルが間接照明の光でキラキラと光っていた。
「お食事はこれからすぐにご用意させていただいてよろしいですか?」
「はい、お願いします。」
ホテル従業員の方と速人さんが会話している横で、私はその光景をポカンとして見つめていた。
ふたりだけになると、静まり返った空間が残る。
「あの・・・。」
「今夜はここで過ごすから。」
今夜はここで過ごすから。
その声がどこかセクシーで艶っぽく感じたのは気のせいかな。
なんだか急にドキドキしてきてしまう。
「はぁ・・。ダメだな。」
「え?」
「安蘇の作戦にまんまとのせられそうだ。」
「・・・。」
速人さんはぶつぶつと独り言のようにつぶやくと、私の方を見た。
そして抱き寄せるようにして、その勢いで唇を重ねる。心臓が跳ね上がりそうになって、必死で鼓動をおさえようと思うけれど上手くはいかない。
キスなんてもう何度も何度もしているのに。
こういうシチュエーションだからなのかな。
心地よいキスに、酔いそうになってしまう。
「紀美香、綺麗だよ。」
唇が離れ、速人さんはそう言ってくれた。
その言葉を待っていたわけではないけれど、素直に、嬉しく感じた。
「このまま抱きたいけど、先に食事だな。」
「ハイ・・・。」
そうしていると、食事が運ばれてきて、テーブルの上に並べられる。
ふたりだけの空間で、ふたりだけで過ごすクリスマスイブ。
「お誕生日おめでとう。」
私と速人さんの声が重なって、ふたりで笑いあう。
今日はふたりの誕生日。そして、付き合い始めた記念日。
特別な日。
私がプレゼントを渡すと速人さんはとても喜んでくれて、じゃ、と速人さんも私にプレゼントをくれた。
コース料理をゆっくりと堪能して、最後のデザートが運ばれてきた。
サンタクロースがハートを抱えた、可愛らしい王道のショートケーキ。私が「おいしい~。」と言いながら食べているのを速人さんはじっと見ていたので、凄く恥ずかしかったけれど、私は最後まで食べきった。
すると、
「紀美香、これ。」
「え?」
プレゼントはもうもらったのに。
誕生石のついた素敵なネックレスを。
私の目の前に置かれた小さな箱。
もしかして。
もしかして・・・?
私が確認するように速人さんを見ると、速人さんは優しく微笑んでいた。
赤いリボンを速人さんがするっと解いて、箱を開ける。
その中にあるものが想像できてしまって、私は思わず涙が溢れてきた。
「うそ・・・。」
ポツリと漏れたつぶやきを消すように、速人さんが口を開いた。
「紀美香、俺と結婚してください。」
目の前にキラキラ光るエンゲージリング。
涙でよく見えなくて、しかもせっかく安蘇さんがメイクしてくれた顔が台無しだ。
どうしよう。
すごく嬉しい。
こんなに幸せなことってあるのかな。
いつかは、って思ってた。
だけど、それが今日だとは思ってもみなくて。
だって、今日はふたりの誕生日を一緒に祝おうって言ってたから・・・そのつもりでいたのに。
「速人さん、こんな私でよければ、よろしくお願いします。」
私は必死で声を出して、頭をさげた。
「ありがとう。」
その後、私たちは当たり前のように寝室へと入った。
覆いかぶさる速人さんが私の額や、頬、耳・・・いろんな場所にキスを落とし、耳元で囁いた。
「ごめん、今日はもう止められない。」
「うん、いいよ。」
速人さんの余裕のなさそうな顔が愛おしかった。
いつだってクールでかっこいい彼が、緊張しているのが伝わってきて、私はなんだか嬉しく感じた。
ぐちぐちとささやかなことで悩んでいた自分がバカみたいに思えてしまう。
クリスマスイブ。
それは、私にとってトクベツな日。
そしてトクベツな彼のトクベツな人になった日。
何度も何度も愛を交わしながら、私はただこの上ない幸せを感じていた。
おわり