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「怪しい二人組?」
「ええ、報道関係者だとは思いますが。空音さんの学校で毎日のように目撃されているようです。学校からの知らせでは特定の生徒に接触したり、撮影したりしているので警備も強化するようです。―――この間、空音さんを撮影してきたというのも二人組でした」
和義からその報告を聞いて柊弥は少し考え込む。
「何が狙いだと思う?」
「空音さんの身辺ばかり狙われていますからね。―――村上静子に接触したというのも彼らで間違いないようですし。と、見せかけて、柊弥を陥れる罠、とか」
「身辺はきれいにしているつもりだが」
「だから、ですよ。正臣氏だってあなたのことでは塵ひとつ拾えないから空音さんを利用しようとしたのでしょう」
「空音の叔母や父親の存在といい、空音がピアノソロに選ばれたことといい、偶然に重なりすぎている気もしないでもないが」
「学校のことに関しては偶然でしょう。ただ、空音さんのピアノはプロでも絶賛するほどですからね。学校としても大々的に披露したいのでしょう。そこをうまく利用して、空音さんの過去のことなどを探っている可能性はあります」
柊弥は難しい表情を浮かべながら、空音の情報をもう一度眺める。
虐待を受けた過去や、母親の自死など、触れられたくないことを、いずれ面白おかしく報道されることだけは避けたい。そしてなによりも、空音が浜木綿家の血をひいていることは決して公にしてはならないことだ。
「空音の裏にはおばあさまがいる。簡単には探らせないだろう」
「問題は学園祭です。学園祭は誰でも鑑賞できますからね。報道陣も許可をとれば撮影できます」
これまで、柊弥の婚約者のことは名前など伏せられてはいるが、今の時代ネット検索をすればすぐに調べられるだろう。追いつく限り、そういった情報が出れば削除するように命じてあるが、すべてを削除できているわけではない。
調べまわっているものならある程度の情報は掴んでいるだろう。彼らにとってみれば堂々と空音を撮影できるチャンスである。
「甲斐はこの機会に粗探しひとつできないほど圧倒させてやればいい、などと楽しんでおりましたが」
「おばあさまがひとこと否と言えばピアノソロの話はなくなるだろうが、そうはなさらないだろうからな」
空音がどこまで本気で音楽をやろうとしているかは柊弥も定かではない。
そして柊弥自身も自分の婚約者とした今ではそこまで強い気持ちでプロにしたいと思っているわけではなかった。
ただ、峰子は空音の選択に反対はしないだろう。
「それから、空音さんの父親のことですが」
「何かわかったのか?」
「はい。村上静子の言っていることは事実です。現在都内の病院に入院中でした。癌をわずらっており、余命宣告されているそうです」
「そうか。では本当に死ぬ前に空音に会いたがっているのだろうか」
「その気持ちはあるのでしょう。ただ、彼自身は接触しようとしていたわけではありません。村上静子が海棠家を頼るよう唆したとか。まぁ、ほぼ彼女の独断で空音さんに接触したのでしょう」
「やはり財産狙いか」
「でしょうね。ただ、例の二人組に関しては、謎な行動も多い。なぜ村上静子に協力したのかもわからない」
「そうか」
「柊弥、この件は私に一任していただけませんか」
和義の表情はいつになく冷たい。お願いしているというよりは、拒否することは許さないといった態度である。
柊弥は怪訝そうに和義を睨む。
「それはかまわないが」
「時がきたら柊弥は空音さんを病院に連れてきてください。嫌がればその必要はありません。―――柊弥に話さなければならないことがあります」