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「あー、いなかっていろいろ大変だよねー。」
柚葉は何かを思うように納得する。
わたしだって、リクトは嫌いじゃないし、付き合う分にはまあいいかな、と思う。
そう、付き合うだけなら。
でも・・・
わたしが、ど田舎の生まれで、結婚話がかなり大きくなってること。
結婚というのは家同士の結びつきでもある。
親戚づきあいなんて始まっちゃうと、嫌でも海人夫婦と顔を合わせるわけで。
本人たちが愛し合ってる・・・気持ちだけで結婚はできない。
それにまだ、わたしには愛はないし。嫌いじゃないけど愛してはいない、ここ重要なのよ。
そういうこと、柚葉もわかっているようだ。
彼女も一応地方出身だから、ね。
「じゃあ、もう陸人くんには申し訳ないけど、ゴメンなさいしちゃえば?」
「やったのに?」
「まあそれはもう一度の過ちだったということで。」
なかったことにはしない、とはっきり言ってたなー。
きっぱり断ればなんとかなるだろうか。
「あああああああ。」
「な、な、どしたのよ、急に。」
急に思い出した出来事に、わたしは思いっきり恥ずかしくなった。
”海人よりも上手いよ?”
どこからそんな自信がくるのかと思って勢いでその挑戦をうけたけど。
確かに・・・すごかった。
リクトってばどこでそんなテクニックを身につけたの、というくらいわたしは翻弄されてしまった。
恥ずかしいくらい、悶えて・・・うわー!
あんなことまでやっといて、ごめんなさい?
言えるのか、わたしに。
言っていいのかー!わたし!
「無理かも。」
「なにが。」
「リクトにごめんなさいは言いにくい。」
「なんでよ。律子けっこう、もてもてじゃん。よりどりみどり。狙ってる男だってたくさんいるのに。」
柚葉にとってはどうして今ままでわたしに彼氏ができないのか謎らしい。
確かに入社してから告白はされてきたけど。
なんだろう。何かが違う。
顔のいい上司に誘われたこともあったけど、確かに、顔もよくて給料も多くて、理想的だったけど、何でダメだったんだろう。
「だって・・・、リクトとは・・・相性良かったし。」
「は?なんの。」
「身体の。」
「り、り律子ってばなにゆってんのよ!!」
柚葉が赤くなってる。
動揺してる。
まさか恋愛占いの相性の結果なんて言葉を期待してたのかしら。
柚葉ってば淡々としてるわりに、なにげに下ネタには弱いよね。
「社長は?うまい?」
「ぎゃああああああああ!!な、なにゆってんの!今、そんなの関係ないし!」
「いや、なんか気になったからー。いいなー、うらやましい。顔のいい男ダメ、とかいっときながらちゃっかり彼女になってるしー。」
「そ、それは・・ごめんてば。」
「赤くなってかわいーわね、柚葉ちゃん。」
「律子・・・いま、律子の話してるんでしょ。」
「そうね。おほほほ。」
なんだか、いろいろ話して聞いてもらうとちょっとスッキリした気分になっていた。
それに、ほら。
こういう会話も久々。
お互い忙しかったし、最後にいろいろしゃべったのって、美絵の衝撃告白の時だったし。
「じゃあ、もう陸人くんとつきあっちゃえばいいじゃん。少し付き合ってみて、やっぱりダメだとか、なんとでも言いようがあるでしょ。」
あ、柚葉がヤサグレ始めてる。・・・遊びすぎてしまったわ。
「え、でもそれってなんかわたし悪い女じゃない。」
「・・・付き合ってもいないのに一夜をともにしといて今更悪い女もなにもないと思うけど?」
「お、おほほほほ。そうよね。確かに言えてるわ。」
柚葉ってなんというか真面目というか真っ直ぐなんだよね。
自分の信念貫くタイプだから、見ていて気持ちいい。
わたしもこんな風になれたらいいな、と思うんだけど、わたしって本能のまま生きてる感じだからなかなか・・・上手くいかないんだよねぇ。
「まあ、なるようになるでしょ。ありがと柚葉、なんだかちょっと落ち着いた。悪かったわね、いきなり新婚家庭にのりこんじゃって。」
「は?新婚じゃないって!結婚してないし!」
「同棲=結婚の準備じゃないの。」
「ち、違うって!・・・って帰るの?律子。」
「うん。話したらスッキリ。」
わたしってけっこう単純。ひとりで盛りあがって、騒いで、落ち着くとまた冷静になれたりする。
まあ、親しい友人がいてくれるからなんだけど。
「せっかくだし、ご飯食べていきなよ。」
「えー、そんなの悪いわよ。」
「春樹さんの手料理だよ?今日、副社長夫妻も来ることになってるし。」
「ええ!?」
副社長夫妻と聞いて、わたしの好奇心がムラムラ。
副社長の電撃結婚の話を聞いたときはビックリしたけど、相手があの紀美香さんと知って、妙に納得してしまった。
なにげに社長より副社長のほうがわたしの好みで・・・失恋したのは事実だけど、紀美香さんなら誰だって応援したくなるだろう。
男女共に好かれる素敵な人だ。
上司からも後輩からも信頼されてて、本当に、世の中こんな女の人もいるんだなーと尊敬してしまう。
副社長の結婚で、涙涙していた多くの女子社員たちもあの結婚披露宴でふたりの愛を見せつけられた瞬間、笑顔になった。
そう、笑顔で祝福するしかない、ふたり。
女の噂の絶えない副社長が選んだのが紀美香さん。
それはなんとなく、わかる。
でも、紀美香さんがあの副社長に応えたのって凄く不思議。
女だったら不安にならないかな・・・あんなにもてて、女の影がある人って。
でも、ふたりそろって来るなら、そんなこと本人の前で聞けないな~。
あーん、聞きたいことはたくさんあるんだけど。
それに社長の手料理?
そんなチャンス二度とこないかも。
「じゃあ、食べて行こうかな。」
好奇心に負ける、わたし。
「あ、よかった~。」
「よかった?なんでよ。」
「ほら、美絵の披露宴もうすぐでしょ。いろいろ打ち合わせもしたいなーって思ってたし。」
「ああ!そういえば。」
「忘れてたわね、律子。」
「だってほらー、異動あったし、仕事覚えるの大変だったし、その上リクト事件。」
「あーハイハイ。」
美絵は入籍だけはして、いろいろ事情で公にはしていなかった。
でも妊娠判明したし、出産前に披露宴をしておきたいってことで、6月半ばに行うことになったらしい。
衝撃告白を受けた3月に、招待状も受け取ったんだった。
まだまだ先だと思ってたんだよね。
あー、なんだかみんな幸せになっていくのね。
独り身仲間だと思ってた柚葉だって、・・・よりにもよって社長と・・・これでイケメントップ2は売却済み。
あ、それにしてもスゴイ光景が見れるのかも。
社長夫妻(まだ結婚してないけど)と副社長夫妻の生のお姿。
社内でこんなの知ってるのってわたしだけかもねー。
律子ちゃんはやっぱりミーハー・・・笑
律子ちゃんは柚葉ちゃんがしっかり者だと思ってますが・・・柚葉ちゃんも意外に流されやすかったり。
社長のいいようにされちゃってますからね(^-^;)