【春夏秋冬、花が咲く】秋風そよぐ - 6/12

ねえ。

絶対固まるよね?

こんな状況目の前で起こったらみんなどうするわけ?

 

すっかり酔いのさめてしまったわたしは、とりあえず柚葉の手をがしっと握ってみた。

柚葉は顔を背けながら、半ば強引にわたしをひっぱる。

「と、とりあえず、あがって!ね!律子。」

 

とりあえずあがって、なんて言われても、ねぇ?

目の前には笑顔の社長がいるわけよ。

しかもなんだか楽しそうだし。

一体何がそんなに楽しいの?ねえ?なんなの。

柚葉にひっぱるようにして連れて来られたのは、綺麗に整えられた陽当たりのよいリビングルーム。

思わず見渡しちゃったわよ。

わたしの1Rのマンションとは大違い。

社長はなにやらご機嫌でキッチンの方へと行ってしまわれた。

 

・・・いや、今はそんなことはどうでもいい。

「柚葉・・・一体どういうこと?ねえ、ちゃんと説明してもらわないと・・・。」

「申し訳ございません!」

「うわっ・・な、ななんなの。」

柚葉はいきなり土下座。

いや、土下座しろなんて言ってないんだけど。

ていうかわたしそんな悪者じゃないんだけどー?

「つまり、こういうことなのよね。」

一人暮らしの部屋を引き払って、男と一緒に住み始め、しかもその男はうちの会社の社長様。

「ハイ・・・。」

 

唖然。

美絵の時も驚いたけど、柚葉までこんなことになっていようとは。しかも社長と。

なんでこう、みんなして隠し事をするのよ。

わたしは思わずイジワルしてみたい気分になって、土下座する柚葉の耳元で囁いてみた。

「柚葉?アナタ、顔のいい男はダメだったわよね?社長とかありえないって言ってたわよね?」

終始柚葉は緊張気味だ。

そりゃあそうだろう。

 

「ご、ごめん、律子。話そう話そうと思いつつずるずると・・・。」

「いつから?」

「・・・きょ、去年の秋頃?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・柚葉。」

「は、ハイ。」

 

わたしの勢いがあまりに怖いのか、柚葉は怯えまくっている。

まったくもう。

まあ、ね。わからないでもないのよ。社内恋愛ってあんまりばれたくないというか・・・知られたくないっての気持ち分かるし。

しかも社長だし。しかも、柚葉は社長秘書だし。

 

「まあいいわ。」

「律子?」

「相手が相手なら話せないわよねぇ。どこからもれるかわからないし。」

「ホント、ごめん!律子がばらすような人間じゃないってわかってはいたけど・・・その・・なんというか。恥ずかしいというか・・・。」

「わかったわよ。もういいから。ていうか馴れ初めは?」

「・・・・・。」

 

そりゃあ驚きはしたけれど、コレが事実なら受け入れるしかないわけよね。

そうすると次に気になるのはやっぱり、現実主義でイケメン嫌いの柚葉がどうして社長といい仲になっちゃったのか、よねぇ?

 

「律子・・・それは・・・また・・・今度でも・・・。」

言いにくそうにする柚葉の顔があまりにも真っ赤だったので、わたしは思わず笑ってしまった。

そうね。確かに社長目の前にそんな話できないわよね。

 

「じゃあ、その話は今度じっくり聞くとして。」

 

そう、柚葉のトップシークレットをわざわざ聞くために来たわけじゃないわけよ。

いや、もちろんなれそめは気になるけど。

急に青ざめたわたしを、柚葉が心配そうにのぞき込む。

 

「ああああああ。」

 

頭をかかえて思いっきり今朝の出来事を思い出したわたしは大きくため息をついた。

そうだ、朝帰りをして、シャワーを浴びて・・・

昔のことをあれこれ思い出してたら、なんかむかついてきて、また昼真っから酒に手を出してしまって・・・

二日酔いなのにまた酔って・・・

休日なのがいけないのよ!

 

「今何時?」

「夕方の4時くらいじゃ・・・。」

「そお。」

「どしたのよ、律子。なんからしくないけど。」

「そうよね。そうなのよ。」

 

「どうぞ。お酒入ってたみたいだし、ハーブティにしてみたよ。」

 

うわっ。

気づいたら社長がかわいらしいティーカップを目の前においてくれる。

 

「あ、ありがとうございます!って社長にお茶を運ばせるなんてすみません!!」

「いえいえ、ここではあなたがお客様ですからね。だよね、柚葉ちゃん?」

「えー、そうですね。」

 

なんだか感激だわ。

社長にお茶を淹れてもらえるなんて絶対ありえないことだし。

 

「じゃあ、僕は席を外しておくから、あとでね。」

 

社長はにっこり笑うと、リビングルームを出て行った。

いやーん。

社長に気を遣ってもらえるなんて・・・

 

「ちょっと柚葉、なにそんな普通の顔してられるのよ。わたしたちが移動すべきじゃないの?」

「別にいいんじゃない。たぶんこもって仕事するんだろうし。」

「あ、そうなの。」

 

しかし、柚葉ってばいつも社長にあの笑顔で、お茶を淹れてもらってるのかしら。

なんてうらやましいの。

 

「で、どうしたのよ。」

「なにが。」

「律子、なんかあったんでしょ。」

「・・・。」

「なんなの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・った。」

「は?」

「だから、やっちゃったのよ。」

「なにを。」

「酒飲んだ勢いで・・・新人の男と一夜を・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・!」

 

微妙な空気が流れる。

 

「律子・・・あんたいつかやるだろーと思ってたけど、ついに!」

「なにがいつかよ・・・。そんなに男に飢えてないわよ。」

「いや、飢えてた。」

「はっきり言うわね。まあ、飢えてたかもしれないけど。」

「いやでも、律子は普段男、男って言ってるけど身持ちは固いと思ってたけど。そんなにいい男だったわけ?」

「それがね・・・知り合いだったのよ。」

「知り合い?」

 

知り合い・・・というのだろうか。

言葉にしてみてから不思議に思う。

本当に、不思議な関係というか巡り合わせというか。

 

「元彼の弟。」

「は?」

「だから、元彼の弟が、今年入社してきてたのよ。昔のことだったし、顔も忘れちゃってたから気づかなかったんだけど、昨夜飲み会で・・・。」

「気づいたわけだ。」

「そうなのよ。それでなぜかヤツの家で飲み直すことになって・・・」

「一夜を共にするという・・・お決まりの展開になったと。」

「そういうわけよ。」

「これまたすごい偶然というか・・・スゴイね。」

 

柚葉の言うとおり。

元彼とバッタリ会っちゃった~てのも凄いなーって思うけど、元彼の弟ってのもちょっと考えられないわよね。

 

わたしは、元彼のことを、簡単にかいつまんで柚葉に話をした。

あまり過去のことを話したことのなかったわたしの話に少し驚きつつも、柚葉は真剣に聞いてくれていた。