【蒼き月の調べ】婚約編 第6章
1海棠家主催のパーティ、というからにはそれなりの規模のものだろうとは思っていたが、予想以上のもので、空音は珍しく緊張気味に控え室の椅子に座っていた。衣装など必要なものはすべて柊弥が用意してくれ、胸にはダイヤのネックレス、そして左の薬指にはク…
蒼き月の調べ『婚約編』
【蒼き月の調べ】婚約編 第5章
1退院してから2週間後、やっと学校に行けることになった空音は少し緊張気味に登校した。ロータリーのある校門から車の送迎で、学校関係者以外入れないようになっている入り口からだ。学校で、あれこれ騒がれるのでは、と柊弥が心配していたが、特に大きく騒…
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【蒼き月の調べ】婚約編 第4章
1正臣の邸宅は都心の高級住宅街にある。すでに月は高い位置から柊弥を見下ろしていた。屋敷に到着し、ボディガードを伴って尋ねると、使用人たちはひたすらに頭を下げて申し訳ありませんとだけ言う。「正臣様の私室にはどなたも入れぬようにと申し付かってお…
蒼き月の調べ『婚約編』
【蒼き月の調べ】婚約編 第3章
1「調理科から音大か、前代未聞だな」空音の進路調査票を眺めながら担任の須山はそう言って笑った。その顔には憂いはない。「3年は音楽科への転科で話をすすめてもいいんだな」「……はい」私立月ヶ原学園は普通科と多数の専門科コースからなる高等学校では…
蒼き月の調べ『婚約編』
【蒼き月の調べ】婚約編 第2章
1「空音、ホテルの仕事は順調?」「うん」 久しぶりに制服に袖を通し、教室に集まる生徒たちはそれぞれに夏休みに体験中の職業訓練の話に花を咲かせている。その日は夏休み期間中に2日ある登校日だった。空音も例にもれず友人たちと職業体験の話…
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【蒼き月の調べ】婚約編 第1章
1「お待たせいたしました。ご注文をお伺いいたします」濃紺のブランドスーツに身を纏い、寸分の乱れもなくネクタイを締めた隙ひとつない男―――海棠柊弥は、隣のテーブルに座る男女二人に注文をとりにきた端麗な笑顔の少女に双眸を見開いて凝視した。これま…
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【蒼き月の調べ】婚約編 序章
「わぁ、麻衣ちゃん綺麗」「ふふ、ありがとう」 新婦の控え室に入るなり、瞳に飛び込んできた麻衣のウエディングドレス姿に、空音は思わず感嘆の声をあげた。空音よりも8歳年上の麻衣は、空音が祖母の元に引っ越してきてから、隣人として空音を可…
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