(1)
「ことー!!こっちこっち」
カフェに入ると、つぐみが恥ずかしげもなくぶんぶんと手を振った。
わたしはカフェオレのSサイズを注文して、つぐみの向かいに座った。
「つぐみ、もう準備終わったの?」
突然呼び出されたのは同じマンションのつぐみの部屋ではなく、駅前のカフェ。
「それがー、準備してたんだけど、やっぱりお菓子買っておいた方がいいかな、とかそう思うとあれもこれもと買い物しちゃってねぇ」
「疲れてお茶してるところに、わたしを呼び出したのね」
「だってー、ひとりじゃ淋しかったんだもーん」
「彼氏さんはどうしたの?」
「今日は就活」
「そっか。でもさ、現地調達もできるんだし」
「そうは言ってもね、まぁいいじゃないの」
わたしたちは明日アメリカに発つ。
大学の和楽器サークルが国際交流のためにアメリカにある提携校で和楽器のコンサートを行うことになっているから。
毎年提携大学のインターナショナルフェスティバルに招待されていて、2、3年生が中心となって参加しているので、わたしとつぐみも今年は一緒に参加できることになった。
その話を聞いたとき、一番に思い浮かべたのは河野くんのことだった。偶然なのか奇跡なのか、河野くんの住所と程近い場所にある大学で、わたしはこの滞在期間中に会えるのではないかと、期待してしまった。
「河野くんから連絡きた?」
つぐみの質問にわたしは首を横に振った。
今回の話が決まった時、わたしはすぐに河野くんに手紙を出した。けれど返事はまだ来ていない。
去年、おばさんに聞いた住所に手紙を送って、その2週間後に返事が届いた。その後何度もわたしは手紙を書いたけれど、それっきり返事が来ることはなかった。
思い知らされるのは、遠距離という現実。
わたしたちをつないでいるものは本当に細い細い糸のようなものだけで、いつでも切ろうと思えばぷっつりと切れてしまうそんな細い糸なのだと、感じずにはいられない。
恋人同士なわけでもない。未来を約束しているわけでもない。
わたしたちの関係は一体なんだと問われれば、旧友としか言えない、その程度の関係でしかない。
「でも、琴、あんなに頑張ってたじゃない。河野くんのお父さんには連絡ついたんでしょう?」
「うん・・・」
わたしはカリフォルニアの日本人学校を調べて、河野先生の勤務している学校に連絡した。そして、大学側にもお願いして、その日本語学校の生徒たちを招待できるようにしてもらった。
そうすれば少なくとも、河野先生だけは見に来てくれるんではないかと思ったから。こんなやり方、ものすごく卑怯だったかもしれない。でも、もうこんな方法でしかわたしは河野くんに会える可能性はないと思ってしまったから。
「じゃあきっと、見に来てくれるよ」
「そうかな・・・」
それでもいろんな不安が入り混じったまま、わたしカフェオレをごくっと飲んだ。