【サクラの木】第7話 ふたつの道 - 1/4

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卒業式から2週間後、わたしとつぐみは一緒に上京した。といっても特急電車で1時間ほどの距離だから、いつでも帰ろうと思えばすぐに帰れる距離だ。数多の大学がある中で、親友と一緒に学部こそ違えど同じ大学に通えることは何より心強い。

特急電車の中で、つぐみがやっとゆっくり話ができる、といった風に聞いてきた。

 

「結局、河野くんとはどうにもならなかったの?」

「うん」

「そっかー。河野くんさ、けっこう告白されてたけど、全部断ってたっていうから、もしかしてって思ってたのに」

「そうなの?」

 

確かに河野くんはもてるだろうけれど、そんなに告白とかされてたんだ。

 

「あたしよく聞かれたわよ、河野くんと琴音はどういう関係だって」

「ええ、そうだったの?」

「幼馴染らしーよ。って言っといたけど」

 

初耳だった。

 

「でも、河野くん彼女いたよね」

「生徒会の美女でしょ?とっくに別れてたらしいよ」

「すごい、つぐみの情報網」

「ふふふ」

「じゃあ、河野くんがどこの大学に行ったかわかる?」

「それは知らない」

 

なんだ。わたしが明らかに残念そうな表情をしていたのか、つぐみがキッと睨んできた。

 

「そういうのは、琴音がしっかり聞いとくものでしょ。メアドも知らないなんてありえない」

「だって聞かれなかったし、聞かなかったし…」

 

そういうことを話す流れにならなったというかなんというか。さりげなく話題をそらされていたようなところもあるし。

もじもじしていると、つぐみに思いっきり叱られた。

 

でもたぶん、わたしの中では実家が近くにあって、自宅の電話番号はわかっているという、変な安心感のようなものがあったんだと思う。

もし、何かあれば連絡がとれるから。

 

「好きだったんでしょ?」

「たぶん・・・。先輩のときは、会えたり、話ができたり、そういうことにキャーキャー言ってることが楽しかったなぁと思うんだけど、河野くんとは一緒にいて楽しいというか、素のままでいられるというか・・・たぶん前から知ってるからだと思うけど」

「いいの?このまま別々の道で」

「よくわからない。もし、縁があればまた会えるかもしれないし」

「あのねぇ・・・高校まではなんとなく流れ的だけど、これからは違うよ?」

 

でも、河野くんはわたしの気持ちを聞く気はなかった。たぶんそれが彼の応えなのだと思う。

あのサクラの木の下で二度目の失恋といえるのかもしれない。

 

通り過ぎる景色を眺めながら、河野くんは一体どこの大学へ行ったのだろうとぼんやり考えた。