【春夏秋冬、花が咲く】冬の小鳥 クリスマス・イブの行方

「少し歩こうか。」

食事の後、彼が言った。

 

まるで夢を見ているんじゃないかと思った。

ふわふわと心が浮き上がるように感じて、けれど、つながるてのひらの温もりが、これは夢じゃないと教えてくれる。

キラキラと光るいろとりどりのイルミネーションがとても柔らかい光に思えた。

 

「恋人がサンタクロースって歌ありましたね。」

「ああ。」

「速人さん、実はサンタクロースですか?」

「ハハ、だったらいいな。」

 

「私、もらってばかりでなにもプレゼント用意してないですね・・・。ごめんなさい。」

「俺にとっては紀美香が手に入ったことが何よりも最高のプレゼントだけど?」

「・・・。」

 

どうしてこう、こんな恥ずかしいセリフを表情ひとつ変えずに言えるのだろう。

 

彼の手が頬に触れる。

自然と向き合う形になって、どきどきする。

背の高い彼を見上げると、優しい眼差しを向けてくれる。

こんなカップルばかりの夜の街で、キスしてようが抱き合ってようが、誰も他人のことは気にしないのだろうけれど、それでもこんな風に向き合うことですら恥ずかしく思えた。

 

「そういう顔するなって。今夜は日付が変わるまでに家に帰すことになってるんだから。」

「え?」

「他に婚約者候補を探されてもなんだし、俺が立候補しておいた。とりあえず信頼をとりつけておこうかと・・・ね。」

「・・・。」

「父は・・・失礼なこと言いませんでしたか?」

「副社長やってて良かったと初めて思ったな。この地位がこんなところで役に立つとは思わなかった。認めてくれるとまではいってないけど、好感触だったかな。」

「うそ・・・。」

確かに彼は会社の副社長だけど。

そうか・・・会社での地位は父にとっては絶対的なものだ。

若くしてその地位を手に入れた彼だから・・・。

 

「でもそれって・・・速人さんの人間性とか・・・。」

「そんなの徐々に認めてもらえばいいことだろう?」

「そうだけど・・・。」

「紀美香のお父さんみたいな人とうまく付き合うのはさ、彼の所行を決して否定しないことだ。人はそんなに簡単には変わらないからな。9対1の法則、相手の主張を9聞き入れて、自分の主張は1にしておくこと。」

「誰の法則ですか?」

「俺の法則。」

「え?」

「難しい相手と取引するときはそうすると、70パーセントくらいは上手くいくかな。」

「そうなんですか?」

「ああ。」

そんな法則・・・でも、そうかもしれない。反発すればするほど父は頑固になる。

きっと、速人さんは私が知らないところで、たくさんの努力をしてきた人なんだと思う。

 

「紀美香の婚約者に昇進できたら、来年のイブは、二人で誕生日を祝って、二人でクリスマスを過ごそう。紀美香がチキンを焼いてケーキを作って・・・。」

まるで夢物語のようなことを語る彼の穏やかな表情が、本気なのだと告げている。

「速人さんは・・・?」

「ん?」

「私が豪華な手料理を作って、速人さんは何をしてくれるんですか?」

「ワインでも買ってこよう。」

「それだけ?」

「じゃあ、飾り付けも頑張ってやろう。」

飾り付け?速人さんが?

「あはは。」

私は思わず声を出して笑ってしまった。

 

私にはまだまだ超えなければいけない壁がある。

けれど、きっとこの人となら超えていける。

 

彼の隣を歩きながら、サンタクロースを信じてみよう、と思った。

 

 

 

おわり