【春夏秋冬、花が咲く】春うらら:後日談 もうすぐ春が・・・

年末年始のお休みは、年内に一泊だけ実家に帰った。

まあ、1年に一度くらいは顔を出さないといけないし。

とはいっても、あんな呑気な家に帰って、することもなければ、やりたいこともない。

社長は実家までついてくる気満々だったけれど、これでもか、というほど説得して今回ばかりは諦めてもらった。

社長の実家っていうのもあまり聞いたことがないけど、あの社長の容姿からして家族全員やたらと顔は良いに違いない。

社長も大人しく実家に顔を出したようだった。

 

そうして、あたしは社長宅マンションで年を越した。

元旦、社長宅マンションには山のように年賀状が届いていて、あたしはその仕分け作業を手伝わされるはめになる。

なぜだ。

なぜ、あたしがこんなことをしなければ・・・。

社長がキッチンに立って、なぜかイチゴちゃんのエプロンをつけてお雑煮を作っている。大晦日にはこれまたプロ級並のおせち料理を作っていたが、あんな社長の姿、社員が見たらさぞ驚くに違いない。

 

あたしはふと年賀の山から、田中柚葉様、と宛名書きされた一枚のはがきを見つけた。

 

『藤原春樹様方、田中柚葉様』

 

確かにそう書かれている。

あたしがここにいることを知っているのは・・・。

裏を見ると、そこには。

 

『 謹賀新年

 

新春のおよろこびを申し上げます

良き新年をお迎えのことと存じます。

昨年中は並々ならぬご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。

 

このたび、私たちは12月24日に 無事入籍を済ませました。

挙式に関しましては後日封書にてお知らせいたします。

これからも変わらぬご支援の程、よろしくお願い申し上げます。

 

柚葉ちゃんも後につづけ~! ファイト!

招待状待っててね。

今年も宜しくね。

 

浅風 速人・紀美香(旧姓:松井)    』

 

「うひゃぁ!!」

いやもちろん、こういうものが来るのは知ってたけど、なぜに元旦に社長宅マンションにあたしがいることを知ってるの、この二人は。

にしてもこれ、どう考えても会社の社員に送ったと思われる印刷文面。

最後の紀美ちゃんの文字はあたし宛てだけど。

「どうかした?柚葉ちゃん、変な奇声が聞こえたけど」

キッチンからひょっこり顔を覗かせた春樹さんが、年賀状に埋もれたあたしを心配そうに見ている。

奇声って、そんなに変な声出してた?あたし。

「いや、なんでもございません。副社長と紀美ちゃんから入籍報告があたし宛てにも来てたので」

「あー、なるほどね。僕宛にも同じの来てるかな」

「来てるんじゃないですか」

「あの二人もなかなかやるよね。たぶん社員のほとんどがこの年賀で二人の関係を知って、今頃絶叫してるんじゃないかな。ははは」

ははは、じゃないってば。

いやほんと、女子社員は泣き叫んでいるかもしれないな。

元旦サプライズ。すごい、すごすぎる。

副社長はコレを狙ってたのか?

あー、律子に詰め寄られそう・・・休み明けが怖い。

あたしだってつい最近知ったばっかりなんだけど。

 

社長はあたしからひょいとハガキを取り上げると、にこにこしながら口を開く。

「来年は僕たちもこういうの出したいね」

「は、はいぃ?」

「いやー、みんなビックリだろうけどね。あー、秘書に手を出したのか、とかいろいろ言われそうだな。どうしようか」

いやいやいや。そんなこと今悩むことじゃないってば!

なに考えてんだこの人は。

 

でも実家で、一緒に暮らす話をちらっとしたら、「あら、いつ結婚するの」と当然のように母に聞かれたことは春樹さんには絶対言わないでおこう。

またこの男は結婚式場とかさっさと予約してそうで怖い。

ちなみにすでに「2月の始めに伊豆旅行の宿を手配したよ」とか笑顔で言われてビックリだし。

いつの間にそんな手配をしたんだろう。

 

「春樹さん、お雑煮大丈夫ですか?」

「あー、そうだった」

 

春樹さんはハガキをあたしに返すと、再びキッチンに戻っていく。

このマンションで、この場所で、あたしたち二人での生活が始まるのかと思うとなんだかドキドキしてくる。

やっぱり一緒に暮らすのと休みの日に泊まりにくるのとではわけが違う。

結婚ともなればそれこそ一生ってことで・・・。

 

いつか、

来年じゃなくても、

近い将来、

そういう日がやってくるのかな。

 

あたしはもう一度二人からきた年賀状に視線を落とした。

 

 

 

おわり