蒼き月の調べ

ピアノを奏でる少女の凛とした横顔は、柊弥の心を奪った。少女の奏でる音になのか、それとも少女自身になのか…
音大に行く気はないか?そう尋ねた柊弥に空音は・・・
様々な肩書きをもつ冷静沈着な大人の男と、独特の世界観をもつ女子高生の恋物語
<登場人物>
杉山 空音 (すぎやま そらね)・・・月ヶ原学園調理科の2年生
海棠 柊弥 (かいどう しゅうや)・・・海棠家の長男。ホテルメロディアーナのオーナー等、様々な肩書きをもつ敏腕家
宮田 和義 (みやた かずよし)・・・柊弥の第一秘書
鳳仙 甲斐 (ほうせん かい)・・・音楽一家の三男

<本編> ※虐待、暴力表現が含まれます

『婚約編』

  • 【蒼き月の調べ】婚約編 序章

    「わぁ、麻衣ちゃん綺麗」「ふふ、ありがとう」 新婦の控え室に入るなり、瞳に飛び込んできた麻衣のウエディングドレス姿に、空音は思わず感嘆の声をあげた。空音よりも8歳年上の麻衣は、空音が祖母の元に引っ越してきてから、隣人として空音を可…

  • 【蒼き月の調べ】婚約編 第1章

    1「お待たせいたしました。ご注文をお伺いいたします」濃紺のブランドスーツに身を纏い、寸分の乱れもなくネクタイを締めた隙ひとつない男―――海棠柊弥は、隣のテーブルに座る男女二人に注文をとりにきた端麗な笑顔の少女に双眸を見開いて凝視した。これま…

  • 【蒼き月の調べ】婚約編 第2章

    1「空音、ホテルの仕事は順調?」「うん」 久しぶりに制服に袖を通し、教室に集まる生徒たちはそれぞれに夏休みに体験中の職業訓練の話に花を咲かせている。その日は夏休み期間中に2日ある登校日だった。空音も例にもれず友人たちと職業体験の話…

  • 【蒼き月の調べ】婚約編 第3章

    1「調理科から音大か、前代未聞だな」空音の進路調査票を眺めながら担任の須山はそう言って笑った。その顔には憂いはない。「3年は音楽科への転科で話をすすめてもいいんだな」「……はい」私立月ヶ原学園は普通科と多数の専門科コースからなる高等学校では…

  • 【蒼き月の調べ】婚約編 第4章

    1正臣の邸宅は都心の高級住宅街にある。すでに月は高い位置から柊弥を見下ろしていた。屋敷に到着し、ボディガードを伴って尋ねると、使用人たちはひたすらに頭を下げて申し訳ありませんとだけ言う。「正臣様の私室にはどなたも入れぬようにと申し付かってお…

  • 【蒼き月の調べ】婚約編 第5章

    1退院してから2週間後、やっと学校に行けることになった空音は少し緊張気味に登校した。ロータリーのある校門から車の送迎で、学校関係者以外入れないようになっている入り口からだ。学校で、あれこれ騒がれるのでは、と柊弥が心配していたが、特に大きく騒…

  • 【蒼き月の調べ】婚約編 第6章

    1海棠家主催のパーティ、というからにはそれなりの規模のものだろうとは思っていたが、予想以上のもので、空音は珍しく緊張気味に控え室の椅子に座っていた。衣装など必要なものはすべて柊弥が用意してくれ、胸にはダイヤのネックレス、そして左の薬指にはク…

 

『波瀾編』

  • 【蒼き月の調べ】波瀾編 第1章

    1「柊弥さんが何時ごろお帰りになるかご存知ですか?」空音は車の助手席に座るボディガードのひとりに尋ねた。彼女は無表情のまま、いいえと小さく答えるだけで、空音の望んでいるような会話には発展しない。彼女の名前は市村春子といい、運転中のもうひとり…

  • 【蒼き月の調べ】波瀾編 第2章

    1「春子さん、やっぱり柊弥さんに相談したほうがいいですよね」「はい、そう思いますが」村上静子という人のことを空音はまったく知らない。父のことですらほとんど記憶にないのだから、その親族のことは、たとえ血のつながりがあると言われても他人でしかな…

  • 【蒼き月の調べ】波瀾編 第3章

    1『結婚なんかしなきゃよかった!!あんたなんか産まなきゃよかった!!』ハッと、我に返る。「どうかした?」突然音がやんで驚いた空音の顔を不思議そうに覗き込んでいる甲斐を見て、こちらが現実なのだと少しほっとする。―――今のは、なに。急に鼓動が早…

  • 【蒼き月の調べ】波瀾編 第4章

    1蒼天に薄くたなびく白い雲がひろがり、紅や黄色の色どりを見せはじめた紅葉が人々を楽しませる、そんな秋真っ盛りのこの日、月ヶ原学園の学園祭が開幕した。「柊弥、すぐ戻ります」和義は人ごみの中に何かを見つけたのか、柊弥の側を離れた。その行動が気に…

  • 【蒼き月の調べ】波瀾編 第5章

    1学園祭を無事に終え、帰宅した空音のためにささやかなお食事会が開かれた。「空音ちゃん、お疲れ様ー」「ありがとうございます」「いろいろ面白かったよね、今年は」甲斐は満足そうにワインを片手にしている。「空音さんのいた調理科のフレンチレストランも…

  • 【蒼き月の調べ】波瀾編 最終話

    「これでいいんですか」「ああ」「なんか緊張しますね」「そうだな」空音が震える手で書き終えたのは、婚姻届。結婚式は身内だけで行い、披露宴はどうやら豪華になるらしい、と空音は聞いていた。披露宴に関してはすべて柊弥に任せていたが、結婚式はひとつだ…

  • 【蒼き月の調べ】あとがきのようなもの

    あとがき?というよりお詫び 本当に長い間未完結のまま放置して申し訳ありませんでした。もう何年もお待たせした方、初めて読んでいただいた方、最後まで読んでいただきありがとうございました。 さてさて、お気づきの方もいらっしゃる…